根の部分には比較的少ない残留農薬

健康に悪影響があるのではないかと懸念される残留農薬ですが、稀に基準値を超えたというニュースに触れることがあります。もちろん基準値オーバーはよくないことですが、農作物に残留していた農薬を食べたことで健康被害に遭ったという話は、少なくとも平成以降聞いたことがありません。

実際どの程度の規制が行われて、どの程度守られているのでしょう。詳しく見てみます。

⇒残留農薬の個別分析への関心の高まり

割合厳しく設定されている残留農薬の基準

日本が特に厳しいという訳ではなく、先進各国では自国の食生活に基づいてそれぞれ基準値を定めています。その数値が守られている限り健康被害にはつながらないと考えて良いでしょう。かなりしっかりした数値が定められているのです。

残留農薬の基準は次のように定められています。まず動物実験を繰り返し、すべての実験結果で毒性が確認できなかった最大量(無毒性量)を割り出し、その実験動物と人間とでは毒性に対する反応が違うかもしれない可能性を考慮して10分の1の量を定めるのです。

そして人間でも個人差があることを考慮してさらに10分の1の量にします。つまり無毒性量の100分の1が1日摂取許容量(ADI)となります。ADIが残留農薬の基準値になるわけではありません。日本人が日常生活において食べる1日当たりの推定量から残留農薬の量を推定し、それを基準にするのですが、その際にADIの80%を超えない範囲で定めます。

つまり動物実験で得られた無毒性量の125分の1以下の数値が残留農薬基準になっていると言うことです。さらに、そうした実験のデータが集まっていない段階では暫定基準として0.01ppmと言う濃度が定められています。

0.01ppmと言うのは、25mプールに角砂糖を1個溶かした程度の濃度です。なぜそこまで厳しいのかと言うと、その作物を生まれてから死ぬまで毎日食べ続けても大丈夫な量を求めているからで、妊婦・幼児・高齢者までを含んだ基準だからです。

ポジティブリスト制度によってさらに安全性が高まった

2006年5月までは残留基準が設定されていない農薬が検出されても、販売規制を行うことができませんでした。それを是正するために始まったのがポジティブリスト制度です。簡単に言うと「基準が定められている農薬はその残留基準値以内で、定められていない物については一律の基準として0.01ppm以下の残留であること」と言う物です。

これを設定したことによって、すべての農薬が規制対象となりました。たとえ発売されたところの新製品であっても広く規制の網をかけることができるのです。むしろ、残留基準値がADIを元に決められた方が0.01ppmと言う数値より基準が緩くなると考えて良いレベルと言えます。

根は農薬が付着しにくいのでさらに安全

通常、農薬と言うものは地上部分に散布します。ですから、地上部には高濃度で付着していても地下部分にはほとんど付着していないということが良くあります。例えば、キャベツの場合、外側3枚の葉に大半の農薬が付着していて、その内側ではほとんど検出されなかったという研究データがあります。

つまり部位によって残留農薬の濃度は大きく異なるという訳です。また、ダイコンやゴボウなどの根菜でも同様のことが推定できます。地上部分には農薬の残留があるかもしれませんが、地下部分にはほとんど付着しない可能性もあります。

一方、水溶性の農薬で根から植物体に吸収されるものもあります。こうしたものはまず植物の体内にある酵素で分解されるのです。分解が追いつかなかった場合でも、植物が成長することで薄まることもあります。ですから、多くの農薬は出荷が近付くと使ってはいけないことになっています。

出荷2週間前まで使って良い農薬の場合、収穫までには雨も降るでしょう。そうすると地上部からは洗い流されてしまいます。地下部分で吸収されるタイプの農薬であっても、それだけの期間があれば植物内部の酵素によって分解されるでしょう。

そして、植物が成長することで薄まる効果も期待できるのです。農薬メーカーはそうした効果を研究して、どの作物にはどのタイミングで農薬を使うのかと言うことを説明書に明記しています。農家はそれを守って使うだけで、残留基準を超えない作物を出荷できるため、いちいちサンプルを収穫して専門会社に残留農薬分析を依頼しなくても良いのです。

輸入野菜が検査で引っかかるのには2つの理由がある

時々輸入野菜が残留農薬の検査で引っかかったというニュースが流れることがあります。これには大きく分けて2つの理由があるのです。1つはポジティブリスト制度のせいで引っかかったものです。生野菜についてはわりあい基準がはっきりしていますが、茹でてから冷凍したような野菜では基準値が定められておらず、一律基準の0.01ppmで判定されることが多いのです。

そのため、それほど高くない濃度の残留であっても基準値違反になる上、新聞などでは「基準値の○○倍の農薬を検出」などとセンセーショナルに報道されてしまったりします。そのため、派手な数字の割に「食べても健康に影響はない」と言う矛盾した報道が流れることになるのです。

もう一つの問題はポストハーベスト農薬(収穫後に使う農薬)です。日本では収穫後の農薬使用は認められていませんが、輸入農作物の一部に対しては食品添加物としてポストハーベスト農薬の利用が認められています。もちろん残留基準は設定されていますが、ポストハーベストを行う人のスキルの問題で基準値を超えてしまうことはありうるのです。

今回話題にしている根の部分について言うなら、ジャガイモにポストハーベスト農薬が使われています。

残留農薬は洗浄と調理で落とすことができる

残留農薬はほとんどが表面に付着しています。ですので、葉物・実物・根物にかかわらず調理前によく洗うことが基本となります。特に根物はたわしでこすりながら流水で洗うことで、相当量の残留農薬を落とせます。加熱調理で農薬が分解されるかどうかは一概に言えないので、しっかり洗うということを守っておけばいいと考えておきましょう。

そもそも上で紹介したように残留農薬の基準値は非常に厳密に定められている上、基準値がないものはさらに厳しい基準で規制されています。ですから、それにパスした農作物であれば、しっかり洗うだけで安全と言えるでしょう。

根菜のうち、にんじんについては既に皮を剥かれた状態で販売されています。ですから、表面をスポンジなどで洗うだけで十分でしょう。ダイコンについてはたわしでゴシゴシこすった方が良いですが、傷みがあって見苦しい状態である場合などを除けば特に皮をむく必要はありません。

ごぼうは包丁の背でこそげた後、ささがきなどにして水に晒しますので、その段階で残留農薬があっても流れ出てしまうでしょう。ただ、ごぼうのアクはクロロゲン酸ですから、あまり抜かない方がいいと言う話も聞きます。

抜かなくても残留農薬の視点で見た場合、問題はないと思われます。このように、2006年5月以降、基本的には残留農薬についてそれほど気にする必要はなくなったと言って良いかもしれません。安心してしっかり野菜を食べましょう。