2018年に流通したほうれん草から残留農薬!農薬の安全性と家庭でできる工夫とは

2018年、市場に出荷されたほうれん草から基準値の22倍を超える農薬が検出されたことが話題になりました。このほうれん草は、「食べても健康に影響はない」と発表されましたが、農薬の安全性について改めて目を向けるきっかけとなり、残留農薬についてより深く知りたいと思った方も多いのではないでしょうか。

ここでは、農薬の役割や残留農薬の検査体制、家庭でできる残留農薬対策など、気になるポイントについて説明します。

⇒根の部分には比較的少ない残留農薬

ほうれん草から検出された残留農薬!その危険性は?

2018年12月、茨城県鉾田市の男性が生産したホウレン草から、残留農薬として基準値の22倍を超える殺虫剤フェニトロチオンが検出され、10都府県に流通したことがニュースになりました。基準値の22倍と言うと非常に危険な印象を受けますが、この発表に当たって、茨城県は「食べても問題ない」とのコメントを出しています。

一方で、茨城県は、ほうれん草の出荷先や流通範囲を調査して、食品衛生法に基づく回収を命じたと報道されたところです。この一連の報道を受けて、「基準値の22倍も農薬が残っているものを食べて、本当に大丈夫なのか?」と不安に思った方もいるのではないでしょうか。

フェニトロチオンは、有機リン系殺虫剤の一種で、「スミチオン」という商品名で販売されているものです。比較的速く分解され、農作作物や土壌に蓄積しないこと、人間や家畜などの恒温動物に対する影響が少なく、害虫に対してピンポイントで効き目をもたらすことが特徴で、そうした効果と安全性が評価され、人や環境に比較的優しい殺虫剤として、1959年の発売当時から、農業や家庭園芸用に広く用いられています。

この時に検出されたフェニトロチオン自体は、農薬としてはそれほど毒性の強いものではないとされているようですが、それでも基準値の22倍もの量を口にしてしまうかもしれない事態が起きたということを考えると、他の農薬の安全性や、残留農薬の検査がどのようになされているかについて、気になる方も多いのではないでしょうか。

農薬とは何か?その必要性と歴史

そもそも農薬とはどのようなもので、何のために使われ、その使用がどのように制限されているのかということですが、「農薬」の定義については、農薬取締法という法律で、「農作物(中略)を害する菌、線虫、だに、昆虫、ねずみその他の動植物又はウイルス(中略)の防除に用いられる殺菌剤、殺虫剤その他の薬剤(中略)及び農作物等の生理機能の増進又は抑制に用いられる植物成長調整剤、発芽抑制剤その他の薬剤をいう。

」と定められています。つまり、農薬は、農作物を菌や虫、ウイルスなどから守るものや、成長を促したり調整したりするものがあるということです。虫や雑草の害により農作物が被害を受けてしまうと農作物自体が収穫できなくなるため、農薬が登場する以前は、大発生した病害虫や農作物の疫病によって餓死者が出るような大規模な飢饉が発生することもあったようです。

農薬は、1年を通して安定した価格の野菜や果物などの農作物を売買するために、消費者にとっても、生産者にとっても、今や欠かせないものとなっています。しかし、技術の進歩により登場した化学合成農薬は、病害虫や雑草の被害を防止し、収穫量を飛躍的に向上させましたが、昭和40年代、農作物や土壌に残留し、人体や環境に悪影響を及ぼす懸念があることが判明し、大きな社会問題となりました。

これを受けて、昭和46年に農薬取締法が改正され、農薬の登録申請の要件を厳しくし、いくつかの残留性・毒性の強い農薬が販売禁止となっています。現在では、より厳しい安全管理体制のもと、農薬の製造、販売、使用が行われているのです。

農薬の安全性と残留農薬

農薬の安全性を確保するための制度として、農薬の登録制度があります。一部の例外を除いて、国に登録された農薬だけが製造、輸入、販売できるという制度で、登録申請の過程では、農薬の安全性を確認するため、作物への害や残留性、人への毒性などについて詳細な資料や試験成績等の提出が求められ、厳しく審査されます。

農作物は、人々の食卓にのぼり、健康に直接影響を与える恐れがあるものであることから、安全性を確保するための仕組みが徹底されているのです。残留農薬については、厚生労働省によって、食品ごとの残留基準が設けられています。

残留基準は、科学的なデータに基づき各農薬等ごとに設定された「一日許容摂取量」(ADI)をもとに、個別に審査・評価され、設定されているものです。2018年に判明したほうれん草の残留農薬は、愛知県が、名古屋市中央卸売市場に入荷されたほうれん草を検査したことから判明したものですが、このように、国内に流通する食品については、国や自治体が残留農薬等の検査を行うこととなっています。

残留農薬の検査は、自治体の監視指導計画に基づき、検査予定数を決めて行われており、検査によって違反が見つかった場合には、食品を廃棄させたり、原因究明や再発防止を指導したりするなどの措置を行うこととなっています。

家庭でできる残留農薬対策とは

農薬は、製造、販売、使用などに際し、安全性を担保するための厳格な審査・検査を経ています。消費者庁も、「食品に残留する農薬を恐れるあまりに、偏った食生活となることは、健康リスクを高めてしまいかねません。農産物をバランス良く食べることが、健康な食生活を送る上で重要」としており、農薬は絶対に口にすべきではない危険なものとは考えられていないところです。

しかし、農薬の多くは化学合成によって作られ、雑草や病害虫を退ける効果があるからには、生物にとって有害な成分が含まれていることは想像に難くなく、科学技術の進歩によって、これまで判明しなかった人体への影響、健康被害が明らかになる可能性がないとは言い切れません。

また、2018年12月に起きたほうれん草の残留農薬の事例のように、検査をすり抜けて流通してしまうことも考えられます。このため、安全確保のための制度設計がしっかりされていると言っても、店頭に並んでいる野菜の残留農薬の危険性が気になってしまう方が多くいるのも事実です。

そこで、各家庭でも簡単にできる残留農薬対策についてお伝えします。良く知られた方法の一つとして、「水で洗う」というものがあります。これは、親水性、水溶性の農薬であって、表面に付いたものについては、一定程度有効と言えるでしょう。

また、親水性で揮発性の高い農薬については、水で洗うだけでなく、ゆでる、煮こぼす、アクを取るといった方法も有効と考えられます。その他、炒める、揚げるなどして加熱すると農薬が除去されることがありますが、一番農薬除去の効果が高いのは、皮をむいて調理することと考えられます。

どのような性質の農薬が使用されているかということは、一見しただけで判断できるものではありませんが、気になる方は、農薬がたまりやすいと言われている、野菜のヘタのくぼみを丁寧に洗ったり、一番外側の葉っぱを取り除いたりするなどして調理すると、より安心感が高まるのではないでしょうか。

有機栽培の野菜を見分ける方法

家庭で残留農薬を取り除くといっても、どのような農薬がどれくらい使用されているかを知ることは難しく、減残留農薬対策には限界があるように感じます。そこで、生産の段階で農薬を使用しない、いわゆる「有機栽培」によって作られた「有機野菜」を購入したいと思う方も多いと思います。

しかし、一口に「有機野菜」・「有機栽培」と言っても、実際にどのようなことに気を付けて、どのように栽培されているのか、また何らかの基準があるのかということが気になります。日本では、JAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)により「有機野菜」、「有機農産物」等と表示するためのJAS規格が設けられており、これによって、種まき又は植え付けする2年以上前から畑の土に禁止された農薬や化学肥料を使用していないことや、肥料や農薬は天然物質又は化学的処理を行っていない天然物質に由来するもののみを使用することなどの条件が定められています。

厳密な審査を通過した認定農家がこの基準を守って生産した有機野菜等だけに「有機JASマーク」を付けることができ、「有機JASマーク」が付いていないものには、「有機」や「オーガニック」と表示して販売できないこととされています。

この「有機JASマーク」は、スーパーなどでのお買い物の際に参考になるかもしれませんので、特に残留農薬が気になるという方は、覚えておくと良いでしょう。